> バルーン椎体形成術 (BKP:balloon Kyphoplasty)

 従来、脊椎圧迫骨折は安静臥床、コルセットの装着等の保存療法が行われ、癒合・治癒してきました。しかし、その多くは変形治癒であり、後弯変形により新たな圧迫骨折を生じたり、変形による背部痛・歩行障害や腹部圧迫による逆流性食道炎を起こしたりします。また骨折の程度がひどいと長期の臥床による廃用障害、遅発性麻痺を起こすこともあり、症例に応じた適切な対応が必要となります。
 椎体形成術は、優れた除痛と椎体圧潰による変形を防ぐ効果があり、特にバルーンを使用した椎体形成術 (BKP) は、その安全性と有効性が認められ、唯一保険適応となっています。手術手技自体は難しいものではありませんが、その適応を判断したり、その後の長期フォローアップ・合併症への対応を行うために、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医の資格を有し、特別な研修を受けたものだけにその使用が限定されています。
 手術は全身麻酔で行い、背中に左右5mm程の切開を加え、バルーンを膨らませることによって圧壊した椎体を整復し、セメントを注入・固定します。約2-30分で終了し、1泊2日で退院となります。
 術後は、軟性コルセットを装着し (3-6ヶ月)、骨粗鬆症の治療、生活指導を行い外来で経過観察を行います (術後1, 2, 3, 6ヶ月, その後3ヶ月毎)。
 稀ですが、再骨折や隣接椎体骨折等の有害事象を生じることがありますので、そのような場合にも適切な治療と長期のフォローアップを行うことが可能な医療機関で加療されることをお勧め致します。術後の管理は、手術を行った病院で行うことが原則ですが、諸事情により困難な場合には、当院でも可能な限り対応させていただいております。

※すべての圧迫骨折が適応となるわけではありませんので、医師にご相談下さい。

> 治療成績

※2020年12月までの総症例数 680例

2014年4月〜2015年3月までの症例

症例       68例(72椎)
性別       男性22例、女性46例
年齢       62〜93歳(平均 78歳)
退院までの期間  1〜24日(平均 5日), 60%は翌日に退院
ほぼすべての症例が疼痛消失、或いは大幅に軽減し元の生活に復帰

続発性骨折

 元々骨粗鬆症が原因となっているため、BKPを行った椎体は、隣接する椎体よりも強度が高くなり、結果隣接椎体に新たな骨折(続発性骨折)を生じることがあります。
 術後早期、特に3ヶ月以内に頻度が高く、その間コルセットの装着をしっかり行い、中腰姿勢を避け、骨粗鬆症の治療を行い骨質の改善に努める必要があります。

矯正損失



 
 BKPを行っても骨折が癒合したわけではないため、矯正損失をある程度生じます。矯正損失は、セメント塊と終板の間で生じ、術後3ヶ月で安定化するものの術後6ヶ月まで軽度進行する傾向があるため3〜6ヶ月程度のコルセット装着・安静期間が必要となります。

セメントの漏出

 脊柱管内・血管内に 骨セメントが漏出した症例は、現在のところ認めていません。


> 一般的なBKPの例

<症例>
 70代男性。1ヶ月前に受傷、軟性コルセット・投薬による保存療法を行うも疼痛改善しないため椎体形成術(BKP)を行った。
 これにより疼痛はほぼ消失し翌日退院、術後6ヶ月経過時も脊椎アライメント(椎骨の配列)・ADL(日常生活動作)の改善が得られている。

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術前X線正面

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術後X線正面

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術前X線側面

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術後X線側面

> BKPの応用例(終板損傷を伴う椎体骨折:続発する椎間板変性に対して)

<症例>
 70代女性。外傷なく腰痛出現、他院で加療していたが疼痛が悪化してきたため、発症から1ヶ月半後に当院へ紹介受診した。L1, L2椎体骨折と診断、終板損傷によるL1/2椎間板変性が進行し不安定性を生じていたため、L1, L2に対しBKPを施行した。
 これにより疼痛は大幅に改善、術後3ヶ月のX線ではL1/2間の前方に架橋形成を生じ安定化した。現在、特に不自由なく生活している。
 終板をBKPによって安定化させることにより、続発する椎間板変性を防ぎ侵襲の高い固定術などの手術を避けることができるものと期待している。

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術前X線側面像

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術前3DCT矢状断像

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術前MRI矢状断像 (T1)

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術後X線正面像

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術後X線側面像

> 椎体形成術後の経過不良例

<症例1>

 70代男性、他院で脊椎圧迫骨折に対し椎体形成術を行い、その後椎体圧壊が進行し腰痛・両下肢痛・歩行障害を生じるようになり、両下肢が全く動かせなくなったため (対麻痺)、救急車で当院に入院した。

 T12からL1に連続して椎体形成術が行われており、著明な不安定性を有し、L2のセメント塊は前方に転位し大動脈を圧排、また高度の脊柱管狭窄・神経の圧排を認めた。セメント塊が椎体内に連続して大量に充填されているため再建が困難で、また著明なるい痩を認め、全身状態も不良であったため手術自体がhigh riskな症例であったが、家族の希望もあり後方アプローチのみでの再建術を行った。

 術後下肢の激痛は消失、車イスで自走できるようになり術後2ヶ月で施設に転院した。

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術前X線

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術前3DCT

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術前MRI

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術後X線

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術後MRI

<症例2>

 80代女性、他院でT12椎体骨折に対しT11~L1に椎体形成術を行い、その後椎体圧壊が進行してきたため、棘突起プレートによる後方固定術を施行された。
 後弯変形による腰背部痛、歩行障害にて当院に紹介され受診した。脊髄の圧排があり、また本人・家族の強い希望により矯正固定術を行った。
 術前は前屈姿勢での歩行であったが、術後は姿勢良く歩行できるようになり、腰背部痛も改善した。

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術前X線

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術前3DCT

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術前MRI

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術後X線

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術後MRI

<症例3>

 80代女性、他院でL4椎体骨折に対しコルセット装着、テリパラチド投与にて保存的に加療されていたが腰痛改善せず、受傷から7ヶ月後に当院受診、L4偽関節の診断にて経皮的椎体形成術(BKP)を施行した。
 引き続きコルセット装着、テリパラチド投与にて経過観察を行っていたが、徐々に圧潰が進行しセメントの前方逸脱、脊柱管狭窄を生じたためBKP術後7ヶ月に再手術(後方椎体固定術)を行った。
 これにより、腰痛・下肢痛は消失し経過良好である。

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受傷時MRI

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初診時Xp

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初診時3DCT

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BKP術後X線

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BKP術後経過

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再手術前3DCT

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再手術前MRI

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再手術後Xp

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再手術後MRI

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