> 転移性脊椎腫瘍



 転移性脊椎腫瘍とは、悪性腫瘍(癌, 肉腫, 白血病etc.)が脊椎に転移したものをいいます。がんで亡くなる人の約30%に骨への転移があると言われており、その中で最も多いのが脊椎への転移です。癌によって侵された脊椎の痛み(背部痛や腰痛)を生じ、脊髄を圧迫している場合には麻痺を生じます。
 がんの治療自体は、がんが発生した元の組織(原発巣)によって異なるため、そのがんを扱う診療科で治療を行うことになります。
 整形外科では、背骨としての支持性が破綻した場合や麻痺を生じてきた場合に、患者さんの痛みやQOL、Performance Status (PS) *を改善させるために手術を行ったりします。

※Performance Status
0:まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
1:肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業
2:歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3:限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4:まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。


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<症例1>
 70代男性。前立腺癌・腎癌があり当院泌尿器科で加療中であった。悪心・嘔吐、歩行困難となり当院消化器外科を受診、イレウスの診断で入院した。しかし、両下肢麻痺が進行し膝立不能となったため入院4日目に整形外科に紹介、T11病的骨折・転移性腫瘍、胸髄不全麻痺、麻痺性イレウスと診断し緊急手術を行った。
 手術は、椎体を亜全摘しインストゥルメント(金属)による固定を行った。術中の病理組織検査では前立腺癌の転移として矛盾しない結果であった。
 リハビリテーション加療と、前立腺癌に対してはホルモン療法を行い自力歩行が可能となり術後1ヶ月で退院した。
 半年後に腎癌に対する手術を施行、術後3年経過した現在、支持なし歩行が可能で特に支障なく外来にて経過観察を行っている。

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術前MRI

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術後X線

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術後MRI

<症例2>
 60男性。数日前より急に腰-下肢しびれ、歩行不能、排尿困難生じ、救急車で来院した。精査の結果、第3, 4胸椎転移性腫瘍と診断、原発不明のため血管造影、腫瘍栄養血管塞栓術を行った後、緊急手術を施行した。
 術後、下肢筋力の回復を認め、車イス乗車、リハビリテーション施行し、放射線加療・及び原発精査のため他院へ転院した。

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術前X線

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術前MRI

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術後X線

<症例3>
 50代女性。他院にて第4腰椎転移性腫瘍に対し放射線治療を行ったが、その後も腰痛と著明な左殿部から下肢にかけての放散痛のためベッド上安静でベッドアップも困難な状態であった。当院へ転院し精査したところ、疼痛はいわゆる癌性疼痛というよりは、左椎弓根の破壊と同部の圧潰による神経根障害によるものと判断し手術を行った。
 手術は、インストゥルメント(金属)による固定に、椎体形成を併用した。椎体内には骨破壊が強いためセメントでは漏出する危険が高いと判断しHA block(人工骨)を充填した。
 術後、腰痛・左下肢痛はほとんど消失し、それまで使用していた鎮痛剤・麻薬の量も激減した。また、車イスでの移動が可能となり、短い距離ならばつたえ歩きも可能となり日常生活動作(ADL)の向上につながった。

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術前X線

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術前3DCT

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術前MRI

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術後X線

<症例4>
 70代男性。前立腺癌で加療中であったが、両上肢のしびれ・筋力低下、歩行障害生じるようになり入院した。精査の結果、C5椎体・C4-6右椎間関節・脊柱管内に転移性腫瘍を認め、脊髄の圧排も高度なため手術(前方後方同時固定術)を行った。手術は、右椎骨動脈を温存しC5椎体、C4-6棘突起・椎弓・右椎間関節・横突起を切除し腫瘍塊を摘出、前方からmesh cage & plate固定、後方からscrew & rod固定を行い安定性を確保した。
 術後、化学療法を行い、脊髄の除圧は良好に維持されている。

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術前MRI

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術後6ヶ月X線

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術後6ヶ月MRI

<症例5>
 40代男性。腰痛が続いているため当院受診、MRIで精査したところ、椎体・脊柱管内には特に異常を認めなかったが、傍大動脈リンパ節の著明な腫大を認めた。大腸癌の既往があったため、そのリンパ節転移を疑い手術加療を行った病院に紹介し、その後化学療法が行われた。

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腰椎MRI

<症例6>
 50代女性。直腸癌に対し手術(開腹低位前方切除術)を受けたが、術後4年より左殿部痛、左下腿外側・足背部痛を生じるようになり、整形外科を受診、腰椎MRIを撮影し腰部脊柱管狭窄症の診断にて投薬、仙骨ブロック等を行った。その後、複数の医療機関を受診するも改善しないため、当院脊椎外来に初診となった。
 明らかな左L5神経根領域の疼痛・知覚障害と下垂足を認め、持参した腰椎MRI画像を確認しリンパ節転移による左L5神経根障害と診断し消化器外科に紹介、化学療法を行いながら経過観察を行っている。
 転移巣の早期発見は、その後の治療・予後に影響するため、骨盤内悪性腫瘍の既往がある症例に対しては、リンパ節転移により坐骨神経痛や神経根障害を生じる可能性があることを認識している必要がある。

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腰椎MRI

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MRI 水平断 連続スライス

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